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コラムCOLUMN

「知的財産の活用」 ~弁理士 岩城 全紀

第29回
特許事務所に依頼する際の提案書作成のコツ
平成28年5月25日
 発明の内容を開示する提案書は、明細書を作成する上で、非常に重要な指針となるものですが、発明者の方にとっては、お忙しい中で本来の業務と直接的には関係のないことをしなければならないわけですから、できるだけ省略化した作業で済ませたいというのが本音ではないかと思います。だからと言って、発明の内容が十分に開示されてないと、明細書作成の際に十分な説明ができず、後願排除効が不十分となったり、相手方の攻撃や権利行使に耐えるタフな明細書になりにくいと言うのも事実です。
 そこで、明細書を作成する立場の人間として、よい提案書とはどのようなものを言うのか、又、提案書に基づいて作成される明細書のあり方について私見を述べさせていただきます。

① 発明のカテゴリーについて
まず、発明を把握する上で、物の発明、方法の発明、或いは生産方法かと言った点を考えなければなりませんが、広い権利範囲を取得するという点に鑑みれば、物の発明の場合はその生産方法に、又、生産方法の発明の場合はその結果物、生産方法を行うための装置といった点にも、発明者(特許担当者)は目を向ける必要があると思います。発明者自身が物の発明として把握していても、その生産方法にも特許性がある場合も少なからず存在すると思われるからです。そのようにすることによって、間接侵害(特許法101条)の適用によることなく権利行使が可能となり、権利行使に耐えうる明細書を作り上げることができると思います。現在では、多項制を利用すれば一出願で済ますこともできますし、将来的には権利の重要度を勘案して分割するといったことも可能です。提案書を作成するにあたっては、常に発明を多面的に見て、カテゴリーの検討を十分に行うことが良いのではないかと思います。発明者の方が、ここまで意識されるのは、現実的にはかなり困難と思いますので、知的財産部の担当者、及び事務所の明細書作成者が常に意識しておかなければならない点だと思います。

② 特許請求の範囲
  特許請求の範囲は、広い方が良いに決まっていますが、実際の記載に際しては、上位概念、中位概念は勿論、実際に実施する下位概念まで、しっかりと具体化した複数のクレームが必要です。審査の段階で、どの程度の範囲ならば権利化できるかと言ったことが中間処理時に把握できますので、対応策を検討する一助となるからです。
 また、「発明の実施の形態」に記載した技術事項についてはすべてクレームアップするのが良いと思います。拒絶理由を受けることなく特許となった場合には、クレームアップする機会が失われることにもなり、訂正審判(特許法126条)では、誤記の訂正、減縮等、限られた訂正しか認められておらず、せっかく開示した有用な発明が権利化できないといった事態を招かないようにするためです。また、クレームアップしなかったということは、自ら権利を放棄したと侵害訴訟等で認定される虞(おそれ)もあります。

③ 明細書作成に当たっては、何と言っても技術的な裏付けが必要であり、そこで、我々特許事務所は、実際の現物を見て、その上で発明者、知財部の方と議論するのが最良だと思っています。現実には、事前に提案書をFAXしていただき、打ち合わせに先立って、その内容を検討した上で、打ち合わせに臨むようにすれば、有意義な打ち合わせを行うことができるのではないかと思います。
また、打ち合わせを行うことなく、提案書だけで明細書を作成する場合には、従来技術(先行技術文献等も含む)や、その背景となる技術、具体例、応用例、効果をできるだけ多く記載して下さい。また、図面については特に重要であり、手書きのラフな図面でも結構ですから、発明の特徴を表す図面を添付して下されば、明細書を作成する上で非常に有用かと思います。
 

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