今回は特許権侵害に関する諸規定について解説します。 ①侵害行為の立証の容易化 侵害訴訟においては、特許権者は相手方の侵害行為の立証を行う必要がありますが、例えば製法特許では、相手方の工場内での製造現場を押さえなければ原則として侵害行為は立証できないわけです。そこで、特許権者が侵害行為を組成していると主張する物件又は方法について、相手方が否認する場合には、営業秘密等の特段の事情がない限り自己の行為の具体的態様を明らかにしなければならないとする積極否認の特則を新設し、特許権者の拳証責任を軽減する改正を行いました(特許法104条の2)。 ②計算鑑定人制度 特許権侵害訴訟においては、特許権者は自ら損害額を立証しなければなりませんが、損害額は侵害者の経済活動によって生じるものであり、その立証には困難が伴います。即ち、提出される証拠の文書が膨大なため分析に困難を伴う場合や、従来の民事訴訟法163条の当事者照会、民事訴訟規則133条の鑑定人の発問に相手方が応じない等の場合は、損害額の立証に著しい困難をきたします。そこで、当事者の申し出があった場合には、裁判所が公認会計士、大学教授等の有職者に損害額の鑑定を命じることができることとし、且つ当事者に鑑定を行うための必要事項を説明する義務を課す制度を設けました(特許法105条の2)。 ③損害額の立証の容易化 特許法105条の3では、「損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。」と規定しています。この規定の趣旨は、例えば侵害行為によって特許にかかわる製品を値下げせざるを得なかった時、製品における特許発明の割合が一部の時等、損害額を一義的に立証するのが困難な場合は、裁判所が裁量によって損害額を定めうることとしています。 ④判定制度の拡充 特許権侵害で常に争点となるのは、第三者の実施行為が特許発明の技術的範囲に属するか否かですが、従来より特許庁が技術的範囲の判断を行う判定制度はありましたが、その手続の根拠規定等を明確化する改正が行われています(特許法71条、71条の2)。また、判定自体も特許庁の3名の審判官によって行うこととし、判断の正確さを高めました。判定の結果には法的拘束力が認められないなどの問題点がありますが、専門官庁である特許庁が行う見解として十分尊重に値するものです。なお、判定は侵害訴訟に伴って行われる場合のほか、例えば特許発明と紛らわしい製品を実施しようと意図する第三者が、特許権侵害を回避すべく、権利範囲を確認するために請求することも可能です。 |
〒005-0005
札幌市南区澄川5条12丁目10-10
TEL 011-588-7273
FAX 011-583-8655