大学等における論文発表と、特許戦略上の問題点について、私なりに感じていることを述べさせて頂きます。 このコラムでも何度も申し上げておりますが、特許制度の大きな目的の一つには、新技術の積極的開示を促すことで可及的速やかに技術の進歩を図るということがあります。 したがって、新規性のない技術に対しては特許は付与されません(特許法29条1項、49条)。 また、新規性の他、特許付与の要件として、いわゆる進歩性がありますが(特許法29条2項)、この進歩性は、抽象的な言い方になりますが、公知技術に基づいて、その道の専門家が容易に発明できたか否かが、判断基準となります。 例えば、仮に論文発表前に基本的な発明について特許出願を完了し、特許出願後に当該発明につき論文発表を行ったとします。 その後、基本発明の改良発明が生じ、その改良発明をやはり特許出願した場合を想定致しますと、特許庁による改良発明の審査の際に、研究者の方が自ら行った発表論文そのものが、改良発明の進歩性判断を行う上での公知資料になり得る場合があります。 つまり、自己の発表行為によって、改良発明の特許性が否定されることがあり得るということです。 また、特許法では特許出願の日から1年6ヶ月後に、出願内容を公表する出願公開制度がありますが、論文発表の場合と同様に、技術開発に際しては、この1年6ヶ月という期間についても、前述致しました進歩性との関係で、常に意識しておく必要があります。 即ち、論文発表と同様に、出願公開によって自己の発明が公知になることで、出願公開後に特許出願を行った改良発明や関連発明の進歩性が否定される場合があり得ます。 大学等の研究者の方にとって、研究した成果を発表するということは非常に重要な責務であると認識しておりますが、特許化という側面からは、上述致しましたようにマイナスに働く場合があります。 論文発表と特許出願という一見矛盾する状況に大学等の研究者の方はおかれているということになりますが、発表を行うときに特許のことについても同時に考慮すると言うことを是非とも意識して頂きたいと思う次第です。 |
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