今回は、特許出願に際して特許庁に提出する明細書の意義について述べたいと思います。 特許出願を行う際には、特許付与の対象を特定するため、明細書を添付して行うわけですが、この明細書には権利書としての役割、及び技術文献としての役割があります。 権利書としての中核部分が「特許請求の範囲」(いわゆるクレーム)、技術文献としての中核部分が「発明の詳細な説明」ですが、特許法には明細書の記載要件が細かく規定されています。 以下に、関連条文である特許法36条4項1号を示します。
この規定は、明細書を権利書としての側面から見た場合に、明細書の「発明の詳細な説明」は、権利範囲を主張するための裏付けという権利主張上の意味合いがあると捉えることができます。 即ち、特許権の範囲は、明細書の「特許請求の範囲」によって確定されるわけですが、その裏付けとなる発明の具体的な実施形態や効果等は、明細書の「発明の詳細な説明」に記載され、通常、実施可能要件と称されています。 例えば、バイオ関係では、特許請求の範囲に、ある特定のDNA配列と相同性が○○%以上の塩基配列からなり、かつB酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAとクレームされている場合を考えます。 このクレームされたDNAにはB酵素活性を有しないDNAが数多く含まれていることになりますが、この場合に特許庁の特定技術分野の審査基準「第2章生物関連発明」によりますと、クレームされたDNAからB酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを選択することは、当業者が期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑な実験を行う必要があると判断され、結果的に実施可能要件を具備しないとして拒絶理由となります(特許法49条第4号)。 つまり、この場合、「明細書の詳細な説明」に、B酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAの単離精製方法及び使用方法(効果も含む)を十分に記載していなければ特許を受けることができないというわけです。 これは、新規技術を開示した代償として特許を付与すると言う特許制度の趣旨に基づく技術文献としての側面からの拒絶理由と言えますが、もう一つの理由として「発明の詳細な説明」の記載が不完全な場合は、クレームされた発明の範囲が不明確なわけですから、権利範囲を的確に主張できないことになり、不安定な権利の存在を許す事態を回避するためとも言えます(権利書としての側面)。 従いまして、明細書の作成に際しては生物関連発明に限らず、「特許請求の範囲」を慎重に作成することは勿論、裏付けとなる実施形態を「発明の詳細な説明」に十分に記載することが肝要です。 |
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