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コラムCOLUMN

「知的財産の活用」 ~弁理士 岩城 全紀

第22回
早期審査制度の功罪
 
『発明北海道』平成18年1月27日発行
 特許出願を行った場合に、当該出願に係る発明について権利化を図るには、出願審査請求を別途行う必要があることは御存知の方も多いと思います(特許法第48条の3)。出願審査請求を行わなかった出願は、審査請求期間の経過後、取り下げたものとみなされ、権利化の途が閉ざされることとなります。但し、原則として出願公開(特許法第64条)は行われますから、他人の権利化を阻止するなどの防衛的な効果は、特許出願によって得られることになります。

 この出願審査請求を行う期間ですが、平成13年10月から施行された改正法によって、従来の7年から3年に短縮されました。このため、現在の特許庁での審査状況は、審査請求期間が従来の7年の案件と、改正後の3年の案件とが混在した状況となっており、いわゆる審査待ち案件の滞貨が増大し、審査待ちの期間が大幅に長期化しています。このような審査遅延の状況を回避すべく、特許庁としては、任期付審査官の採用、先行技術調査の外部機関活用などの対策を講じていますが、抜本的な改善には至っておらず、審査請求後、特許庁から回答までの期間として3年程度要する状況となっております。出願審査請求の可能期間が改正されたのが前述しましたように平成13年10月ですから、このような状況は平成20年ごろまで続く可能性があります。

 このような状況の下、実施関連出願や外国出願案件など、早期の審査が必要な案件については、一定条件を満たす限り、優先的に審査を行う優先審査の制度が設けられています(特許法第48条の6)。優先審査を申請しますと、早ければ特許庁から3ヶ月前後で、最初の応答があり、特許要件を具備している出願については、即、特許査定が下されますし、拒絶理由がある場合はその旨通知されるわけです。従って、仮に特許査定となった出願については、本来の特許権の存続期間である20年近くの存続期間を丸々享受することができることとなり、基本発明など強力な特許の場合は、大きな効力を発揮することになります。この点が早期審査を行った場合の功ということになります。

 では、早期審査制度の罪の部分とはどのような点でしょうか。
早期権利化を図ることが出来るのですから、デメリットはないと考えがちですが、以下のような点が挙げられます。
例えば、出願公開前に早期審査を申請し、出願公開の時期より前に特許となりますと特許の内容を公表する特許公報が発行されますが、仮に、特許公報の発行後、特許となった発明の改良発明を出願した場合、自己の特許の存在によって、改良発明の進歩性が否定される場合があるということ。
進歩性は、特許法第29条第2項によって規定された特許を取得する上で具備していなければならない要件の一つですが、特許が拒絶される場合最も多い理由の一つです。進歩性を定義致しますと、出願前の公知技術に基づいて、その技術の専門家であれば、容易に考え得る発明について特許を認めないということになり、出願人が同一の場合にも適用されます。つまり、改良発明と、既に取得している特許との関係が密接な場合は、自らの特許の存在によって、改良発明の進歩性が否定され、特許を取得できない場合が有り得るということです。通常であれば、出願日から1年6ヶ月後に行われる出願公開を経て、公知技術となるわけですが、早期審査の申請によって特許公表が発行され、早々と公表される結果、このような事態が生じます。この点は、早期審査を活用する場合、十分に注意しなければならない点であり、技術開発の動向を注視しながら、特許戦略も同時に立案し、戦略的に出願、審査請求を行う必要があります。具体的には、今後の改良発明は生まれる可能性はないのか、或いは製品化の予定時期、製品のライフサイクルなど、勘案すべきことは多々あります。
 
 また、早期に公表される結果、ライバル関係にある他社に自社の技術開発動向を知らしめると言った点も懸念材料と言えます。いずれにせよ、早期審査制度は、メリットもある反面、上記のようなデメリットもあると言うことを御理解頂き、戦略的に活用して頂ければと考える次第です。


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