私の社会人としての人生は、大学卒業後の昭和61年4月がスタートで あった。勿論、大学在学中にアルバイトはしていたが(最も長くやったのはNEC・玉川事業場での夜間稼働機器の保守巡回の仕事で4年弱従事)。
その年3月に、東京の武蔵工業大学(現、東京都市大学)の機械工学科を卒業したが、少々ムラっ気がある性格を企業の採用担当者に見抜かれたのか、大学在学中は中々就職が決まらず結局、後先も考えずに、生まれ故郷の札幌の「株式会社マ*マ」というベンチャー企業に入社した。同社はローカルエネルギー(今の言葉でいうのなら再生可能エネルギー)の利活用、つまり風力発電や地熱発電の企画・設計・施工を標榜し、社会のことが良く分からない自分にとっては一般的なメーカなどと比較して何となく夢が感じられた。当時、話題になったススキノ温泉を掘り当てる事業を請け負ったのも同社である。 かような状況下、社会人一年生として、温泉熱・ヒートポンプを利用した 暖房設備の設計、図面の作成、営業的な仕事などの多彩な経験を短い期間ではあったが、体験できたのは自分にとってプラスではあった。 精神的に若く、学業的に優等生でもない私を採用し、指導してくれた前述の「マ*マの社長」や、同僚の諸氏には感謝している。会社の皆さんには仕事が終わった後にススキノへかなりの頻度で飲みに連れて行って貰ったりと、それなりに可愛がって頂いての社会人生活の第一歩であったが、当時の心境として会社の規模とかは関係なく、徐々に自分の職業適性という面で、何か食い足りない思いを感じるようになり、必然的に自分にあった職業(職種)とは何かということを模索するようになった。 以前より仲良くしていた高校時代の友人S・O氏が弁理士試験という国家資格の勉強をしていることを聞いていたが、その内容までは知らなかったので、書店でガイド本や合格体験記を購入し、自分なりに仕事内容を調べてみた。弁理士の仕事とは新規有用な技術について特許を取得するための手続を行うのがメインの業務とのことで、それなりに好奇心の旺盛な自分には意外に合っているような気がした。また、今更、司法試験や司法書士、税理士試験など、文科系の難関国家試験を受けるのは畑違いであるし、理系である経歴 (半理系程度ではあるが)を生かすことができるということに魅力を感じた次第である。 その一方、当時の状況として弁理士の資格試験は、年間合格者が100人程度で、かなりの難関試験であり、且つ受験生も少ないマイナーな試験故、当時の札幌において弁理士資格の受験勉強を行うことはほとんど不可能な状況であった。東京や名古屋、大阪などの都市部でならば、資格試験に向けた講座が開設されていたり、又、受験生同士がゼミを組んで議論を通じて理解を深める場があると、上記のガイド本に記載されていた。当時は勿論インターネットなどもなく、札幌近郊住まいの私には勉強の場すらないという事実に当惑したものである。そこで、一大決心をし、大学入学に続いて二度目の上京を試みるとと同時に、特許事務所に入所して実務経験を積むことを一応決意した次第である。「一応」と書いたのは特許事務所に入る以前に、ちょっとしたアルバイトをしたが、その点は後述する。北海道育ちの私にとって再度東京へ出るということは、いわば留学と同様に重たいことではあったが、この頃は若さもあり行動力があった。 私の持論として、実務経験を経ることなく単に資格試験だけを目指すのは、仮に資格を取ったとしても、その仕事が自分に合っているかが分からないのであるから、資格のみを先行取得するのは冒険であると考えていた。 この点は、あくまで私の持論である。実際には資格試験を先にクリアし、 その後、弁理士として立派に大成されている諸先生が何人もいらっしゃるから、それは、あくまで私の考え方であるということを御理解頂きたい。 というのは、特許事務所で特許担当の弁理士のメイン業務ともいえる特許出願用の明細書の作成は、技術論文の作成に似たところがあり、大学の理系学部や工業高等専門学校などで論文を書き、且つ技術者としての実務を経験されてきた方にとっては、「特許請求の範囲」の考え方(これが最も難しいのであるが)を身に付ければ、さほど困難ではないことに起因していると思う。要するに文章を書いたり、ちょっとした図面を起こすことが苦にならないのであれば、特許弁理士の仕事に対しての適性はあると考えてよいだろう。 このように、弁理士試験の合格後に、特許事務所に勤務して特許又は商標の実務を習得することは意欲さえあれば十分可能であり、私の受験生仲間でも実務に携わる以前に合格を果たし、その後、立派に事務所を開設するなどして知財業界に貢献されている方が多いのも頷けることである。 その一方、弁理士試験には合格したが、その仕事になじめず登録を抹消したりする人も居ることは事実であるから、これから弁理士になろうという方は仕事の内容は十二分に吟味しておく必要はあろう。特許弁理士の場合は明細書の作成が基本業務となるが、この仕事は技術が複雑化した今日、技術的知識の深さと同時に法令の理解、作成作業には相当の根気・気力が要求され、新しい案件に取り掛かる際には気持のリフレッシュ及びリセットが毎回必要となる。正直にいうと自分の子供には後を継がせたくないと思ってしまう部分もある。しかし、後述するように、理系出身者にとって独立し易い数少ない国家資格であるし、外国での特許権若しくは商標権等の権利取得をサポートする機会も数多い。従って、知識欲が旺盛で我こそはという方には是非挑戦してほしい仕事であるといえる。近年は弁理士に加えて弁護士も、この知財の業界に多く参入するようになっており、法律特許事務所を名乗る大事務所が出現する一方で、中小の特許事務所は厳しいビジネス環境になっていることは心に留めておいてほしい。 第2回に続く |
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