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いわき特許事務所は特許・実用新案、意匠、商標を専門とする事務所です。

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コラムCOLUMN

「我が職業人生奮闘記」 岩城 全紀

第42回
~地方での事務所経営の実際
【後編】「弁理士となってから」第四章 
 私の場合、正直に云うと、特許及び実用新案以外の仕事は自己の事務所を開業するまで、携わったことがなかった。このため、商標出願や意匠出願については、受験生時代の知識だけでは当然不十分であったが、友人の弁理士先生に教わったり、或いは既存の登録例を参考にして出願案を作成するといった感じであった。特に、北海道のような地域では、商標や意匠に関する相談がどうしても多いので、やらないわけにはいかないのである。 しかし、意匠にしても商標にしても、権利範囲という考え方は特許の場合と同様であり、比較的早期に慣れることはできた。現在の私は、事務所に弁理士が自分一人(事務スタッフは在籍)しかいない俗にいう一人事務所を営んでいるわけであるが、東京での特許事務所勤務時代の友人、前述の弁理士会の委員会所属時における友人が人的ネットワークとなって、特許の場合は自分の専門を超えた技術分野について助言を得ることができるし、商標の分野においては特許弁理士の自分にとって、やや困難な意見書等の作成や、外国での権利取得など、友人たちに大いに助けて頂いている。今後、訪れる事務所の承継課題に関しても、今までの人脈を利活用して進めることになるだろう。

 また、特許出願の明細書等の作成などの実務面に関しては、独立したことで事務所勤務時代とは異なる態度で臨むようになった。というのは、事務所勤務時代は雇われているという意識が、どうしても根底にあって、俗な言葉で云えば、やっつけ仕事的な部分があったと、今になって思う。勿論、当時の自分は最善を尽くしていたつもりだったのだが、自分が事務所の所長となり、クライアントから直に報酬を頂戴する立場になると、仕事の品質を向上させる意識が高まるのは当然であり、手掛ける仕事をより丁寧にこなすようになり、1件の仕事に掛ける時間も多くなっていった。要するに、事務所勤務時代とは異なるプレッシャー、つまり出願することの意味(一義的には確実な権利化)を考えながら、仕事をせざるを得ないのである。さらに、健康管理に関してもサラリーマン時代は、定期的な健康診断もあったが、自営業者になると完全な自己責任となり、又、事務所の備品の調達、税金の確定申告等、やるべきことは非常に多いというのが、実感である。従って、仕事その他の事務所運営の重圧は、相当大きいといえる。

  今、弁理士の数は、私が合格した平成6年の4千人前後の時代から、大幅な増員が図られ、1万人を優に越えるに至っている。国は知財創造立国を目指すという方針の下で、弁理士試験の仕組みを変えており、一例を挙げると大学院修了者は二次試験における選択科目が免除されたり、一次試験合格者は翌年の一次試験受験が免除されるなど、以前より合格し易い内容となっていることは事実である。
 これらの施策もあってか弁理士の志望者は増加しており、結果的に弁理士の層の厚さをもたらした。改めて思うが、弁理士という資格は、特に理系の人間にとって数少ない独立開業し易い資格といえるし、又、国際的な案件も多く、国内外で活躍することも本人の能力・努力次第で十分可能である。個人が取得する資格・仕事としては魅力的で、非常にやりがいのある職種といえるのではないだろうか。私の場合は、札幌に戻り特許流通アドバイザーになってから、成り行きのような形で特許事務所をやっているが、弁理士という職業を選択して良かったと思っている。

 余談だが弁理士試験は、一次試験が5月下旬、二次試験は7月下旬の暑い盛りに行われ、合格まで6年(平成元年~6年)を要した私にとって、その間、毎年行われる一次、二次試験はイベントのようなものであった。当時、平成2年、4年、5年と二次試験を受験して全敗したが、それらの二次試験はエアコンの無い大学が試験会場であり、汗だくになって答案を作成したことは今は良い思い出である。私が最終合格を果たした平成6年の二次試験は、エアコンのある会場で試験が行われ、北海道育ちの自分にはラッキーだった。試験に合格するためには、一種の幸運も必要である。当時の三次試験は、二次試験合格者に対して11月下旬に行われたが、一種の人柄試験的な側面もあり、弁理士試験の最大の天王山は、やはり二次試験である。

 しかし、技術的、学術的に非常に優秀な方が、弁理士になることに関しては、私は一抹の疑問を持っている。技術的に高いポテンシャルを有する方には、企業や大学の技術者・研究者として製品開発に関与したり、研究活動を継続して成果を挙げてほしいと思う。弁理士には、それほどの優秀さは必要ないといえば言い過ぎであろうか。勿論、弁理士は法律にのっとって業務を行い、且つ、特許弁理士の場合は専門技術的な理解度の高さが要求されるので、技術の知識に加えて法的センス、バランス感覚といった点を併せ持っていなければならない。一方で、弁理士の仕事は、いわば縁の下の力持ち的な仕事がメインであり、有能な方が、知財業界ありきで最初から参入するのは技術的、学術的な面で、損失ではとも感じるのである。

 私見ではあるが、特許権は独占排他権である故、権利者の一人勝ちをもたらし、お金が儲かる制度と理解している方もあるかもしれない。しかし、その考え方は現実とは違う。一つや二つの特許だけで製品が成り立つわけはなく、その製品の実現には様々な人的要素、物的要素、流通させる苦労、規制される法令の遵守などが加わって、ようやく一つの製品として成立している。つまり特許ありきでは製品として成り立たないし、その製品の実現にかかわる様々な人たちの努力・苦労を忘れてはならないと思う。  
                        謝辞(最終章)に続く

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